第737回:高齢者の「所得」に着目した介護保険改定の内容について

地方政治新聞「民主香川」に、「史上最悪の社会保障改悪」というタイトルで、医療・福祉の改悪の内容を連載しています。2015年6月21日号(第1674号)に掲載した、「第5回 高齢者の『低所得者』に対する新たな制度について」で、一部修正しています。

介護保険改定に伴う変化として、今回は所得の問題を取り上げます。

総務省の「家計調査」によれば、世帯主が60歳以上の高齢世帯のうち、無職世帯は約7割で、その消費支出は減少傾向にあります。14年には月平均207,370円で、00年と比べて7,521円減りました。収入から税金や社会保険料を引いた可処分所得をみると、高齢無職世帯の月平均は14年に147,761円で、00年に比べ34,694円減少しています(「しんぶん赤旗」6月5日)。

00年度から14年度にかけて、65歳以上の介護保険料は1.7倍に上昇、基準月額は全国平均で4,972円になりました。15年度からはさらに大幅な引き上げがあり、6,000円を超える自治体もでてきました。

今回の介護保険の改定により、これまで自治体独自の政策として行われてきた「公費投入による低所得者の保険料軽減」が、制度として確立することになりました。当初予定は別表の通りでしたが、消費税の10%への増税が延期されたことに伴い、最も所得の低い第1段階で、軽減率が50%から55%に拡大するのみで、第2・3段階は据え置きとなりました。この点でも、社会保障充実のための消費税増税ではなかったことが証明されています。

また、65歳以上の被保険者のうち、所得上位20%に相当する基準である合計所得金額160万円以上の者(単身で年金収入のみの場合、280万円以上)を基本として、この8月からは2割負担になります。

また、これまで低所得者対策として、施設サービスや短期入所サービスの食費・居住費等を軽減する「補足給付」を行っていました。この制度を、世帯分離していても配偶者の所得を勘案する、預貯金等について、単身の場合は1千万円以下、夫婦の場合は2,000万円以下であることを要件に追加しました。

所得を確認する方法として、預貯金(普通・定期)の場合は、通帳の写し(インターネットバンクであれば口座残高ページの写し)、有価証券(株式・国債・地方債・社債など)の場合は、証券会社や銀行の口座残高の写し(ウェブサイトの写しも可)としています。

また、ご丁寧にも、「配偶者の範囲」として「婚姻届を提出していない事実婚も含む」と記載しています。

この問題について、「朝日」(6月13日)が、介護費用軽減「通帳写しを」の見出しで報道しました。

特別養護老人ホームなどの介護保険施設を利用している高齢者に、全国の自治体が預貯金通帳のコピーの提出を求める通知を出し始めた。施設での食費や居住費の負担軽減を受けている人らが対象。自治体には、本人やケアマネジャーらから「なぜ必要なのか」「本人が認知症で、家族も近くにいない。どうしたらいいのか」といった問い合わせが相次いでいる、と報じています。

夫婦の場合も問題になりますから、妻(あるいは夫)の通帳コピーも必要になります。本人が認知症で家族が遠方にいる場合など、8月実施には相当無理があると言えます。現実的な対応が求められています。

※別表
世帯全員が市町村民税非課税で本人年金収入が 当初予定の軽減率 4月実施の軽減率
第1段階 80万円以下 50%から70%に拡大 50%から55%に拡大
第2段階 80万円超から120万円 25%から50%に拡大 25%に据え置き
第3段階 120万円超 25%から30%に拡大 25%に据え置き