第711回:介護認定のあり方を考える(その1)

介護保険の認定について疑問に思うことがよくあります。中讃のある地域では極端に認定が厳しいと言われています。先日中讃地域の事業所に介護の現場の取材に来た方が、車いす移動で入浴している方を見て「この方が、なぜ要支援なのですか?明らかに介護を受けていると思いますが」と首を捻っていました。

介護保険を利用するためには住民票のある市区町村に申請しますから、判定が厳しいからと言って他の市区町村に申請することはできません(引越しすればできますが、現実的な解決にはなりません)。そのため「判定が厳しい」というのは、そう感じる、個別の意見ということになり、客観的に証明することはできません。

介護認定に詳しい方から、最近の事例を聞きました。

(1)「常時尿臭がある。下着の交換を家族が促すも行わない。入浴時には交換する」などの記載があり、訪問調査員は「一部介助」と判定していましたが、市区町村の問い合わせで、「排尿」の介助が行われていないとして、「介助されていない」に変更されていました。

確かに、自らの意志で下着の中に放尿して、自らの意志で下着を替えないのなら「介助は行われていない」ということになりますが、どう考えてもこれは屁理屈です。厚労省の出した「認定調査員テキスト2009 改訂版」によれば、「本人は自分でトイレにいけると言うが、尿臭が強く、不適切な状況にあると判断し」た場合は、「適切な『介助の方法』を選択し、介護認定審査会の判断を仰ぐ」ことになっているのです。介護認定を引き下げる目的で、市区町村が介入したのではないかと疑われても仕方がないのではないでしょうか。

(2)最初の判定は要介護2で、コンピュータがはじき出した「基準時間」は53.8分でした。「つめきり」の項目が最初は「全介助」でしたが、市区町村からの問い合わせにより「介助されていない」に変更されました。その結果、「基準時間」は49.9分で要支援2に変更されました。市区町村の関与はともかく、現在の介護認定の問題点を示したものなのです。たった、1項目が変わっただけで認定結果が大きく変わってしまいます。

介護保険制度が出発した時点では、多くの認定調査会で現実にあった判定を行うために、審査委員は行政の担当者とともにこの判定でよいのかと討議しながら判定業務を行っていました。現在はコンピュータ判定が優先されるため、変更が困難になっています。

要支援者の介護保険外しや特養への入所制限など、介護認定の重要性が高まっています。これからもこの問題を取り上げていきます。