第705回:「患者申出療養(仮称)」制度の問題点(その1)

「医療保険制度改革骨子(案)」(以下、(案)と表記)についての連載の2回目で、「患者申出療養(仮称)」です。まず、厚労省の(案)から引用します。

「困難な病気と闘う患者の国内未承認薬等を迅速に保険外併用療養として使用したいという思いに応えるため、患者からの申出を起点とする新たな保険外併用療養の仕組みとして患者申出療養(仮称)を創設し、2016年度から実施する」

「困難な病気」とは、進行ガンや難病など、治療法に難渋する場合を想定しています。

医療保険で医療を行う場合、厚労省が「保険適応」であると認めた検査や薬剤を使用しなければいけません。保険診療と「保険適応外」の検査や薬剤の使用を同時に行うことは原則的に認められません。

例外的に認められるのは、通常の診療で来院した時に行う、インフルエンザの予防接種や肺炎球菌ワクチンの接種、検診やドックで胃カメラ時に行う組織検査(生検=せいけん)などです。

こういった制度を変えて、患者が申し出れば、「保険外併用療養」を行えるように変えてしまうというのが今回の(案)です。

実は現在でも、混合診療(保険診療と自費診療を同時に行うこと)として制度的に認められている、「評価療養」と「選定療養」があります。

「選定療養」とは、差額ベッド、歯科で使用する金(ゴ―ルド)などです。

「評価療養」とは、保険適応と認められるほど普及していないが、一部の大病院などの専門施設なら安全に使用できる検査や薬剤などを、保険適応になるまでのあいだ先行的に実施可能になる制度の事です。つまり、ある程度の安全性が担保できるなら、新しい検査や薬剤の使用は、いまでもできるのです。

今回の制度変更の最大の問題点は、検査や治療薬の安全性について国が責任を持つのでなく、申し出た患者と、それを認めて行った医師に責任が負わされることになる、つまり、患者も医師も「自己責任」で行え、という点なのです。

憲法25条の「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」という、国民の健康に関する責任を放棄した制度だと言わざるを得ません。

(この項、続く)

注:(案)の引用時に、元号表記を西暦表記に変更しました。