第1056回:国民健康保険制度を考える(その4)

地方政治新聞「民主香川」に、「全世代直撃の社会保障改悪」というタイトルで、社会保障関連の内容の連載をしています。2019年7月21日付(第1819号)に掲載した、「国民健康保険制度を考える」(その2)の後半です。

その一方で、自治体が関与することにより、住民自治によりうまくコントロールできる可能性があるという点もあります。

「行政」といっても最初から誰かが権力を持っている訳ではありません。地域の実情に応じて様々なやり方があり、「住民自治」で、住民本位の運営が可能になる可能性を秘めている訳です。

その典型例が、岩手県の豪雪地帯にある沢内村の実践です。

「厚生の指標」第56巻第8号(2009年8月)に掲載された「生命行政の検証-岩手県旧沢内村(現西和賀町)の老人医療費無料化が村におよぼした影響-」(※2)によれば、「沢内村は昭和35年12月から65歳以上,昭和36年4月から60歳以上と乳児の医療費無料化を実施した。しかし,昭和34年に国民健康保険法の実施に伴い特定地域の10割給付について県および行政機関から沢内の医療費無料化策は攻撃された」。

当時の深沢村長は「国民健康保険法に違反するかもしれない……憲法違反にはなりませんよ。国民の命を守るのは国ですよ。国がやらないのであれば私がやりましょう。国は必ず後からついて来ますよ」と反論したそうです。

また、同時に豪雪に対してはブルドーザーによる除雪などに力を入れ、積極的な保健師の採用や乳児健診を展開しました。

つまり、国民健康保険制度の仕組みの根幹には民主主義があるということです。

「社会保障及び国民保健の向上に寄与することを目的」とするという面で考えれば、住民自治が機能して、国保を中心に保健行政を住民本位に変革することができたら、住民の健康・福祉が大きく前進するということを実証した典型例だと思います。

※2鈴木るり子岩手看護短期大学専攻科地域看護学専攻教授