第919回:遠隔診療の早急な保険導入には疑問があります

香川県保険医協会報2017年9月号の「主張」欄に、遠隔診療に係る内容を掲載しました。転載します。

2018年4月の医療・介護報酬の同時改定に向けて、中医協(中央社会保険医療協議会)など、各種審議会で議論が急ピッチで進んでいます。

次回改定で導入が検討されているICT(注1)を活用した、「遠隔診療」について考えます。

医師法第20条は、「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付」してはならないことを定めています。

診察を行うことなく診療を行う「遠隔診療」については、平成9年12月の通知(注2)の中で、「診療は、医師又は歯科医師と患者が直接対面して行われることが基本」「初診及び急性期の疾患に対しては、原則として直接の対面診療」によることとしましたが、「直接の対面診療を行うことが困難な」離島やへき地の場合、在宅酸素療法患者や在宅難病患者など9つの例示を挙げ、遠隔診療が認められるとしていました。

この通知に対して、平成27年8月10日の事務連絡の中で、「直接の対面診療を行った上で、遠隔診療を行わなければならないものではない」としました。つまり、「初診はかならずしも対面診療である必要はない」、遠隔診療の全面解禁として、営利企業などがいっせいに走りだしました。

さらに、平成29年7月14日付の医政局長通知で「テレビ電話や、電子メール、ソーシャルネットワーキングサービス等の情報通信機器を組み合わせ」「直接の対面診療に代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報な情報が得られる場合」は「遠隔診療」は認められるとしました。

しかし、どんな病気でも、対面診療を行うことなく(目の前で患者を診ることなく)、診断し治療方針を決めることができるのか、医療の安全をどう確保するのか、初診時の患者の同意はどう確認するかなど、疑問は多く、中医協においてきちんとした検討なく、拙速に保険診療として導入すべきではないと思います。

注1:ICT(Information and Communication Technology):情報通信技術

注2:健政発第1075 号:情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について