地方政治新聞「民主香川」に、「社会保障はどうなるか」というタイトルで、社会保障改悪の内容の連載をしています。2016年3月20日号(第1701号)に掲載した、「社会保障はどうなるか(3) TPPと医療について(2)」です。
TPPが医療にどう影響するかについて考えてみます。
新しい診断方法、治療方法や手術方法など医療技術に係る特許について、内閣官房TPP政府対策本部が2015年11月5日に明らかにした「環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の全章概要」では、第F節(特許及び開示されていない試験データその他のデータ)で、次のように規定しています。
「○特許を受けることができる対象事項(第18.37条)
各締約国は、新規性、進歩性及び産業上の利用可能性のある全ての技術分野の発明(物であるか方法であるかを問わない)について特許を取得することができるようにする」。
一方、2016年1月7日に公表された、TPP協定の暫定仮訳によれば、
「締約国は、また、次のものを特許の対象から除外することができる。(a)人又は動物の治療のための診断方法、治療方法及び外科的方法」
となっています。
つまり、医療技術などは、あくまで、締約国が「除外することができる」としているだけで、締結国の判断により特許の対象になる可能性も否定できません。
日本でも、医療にかかる技術等の特許については、2002年11月14日に開催された、産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会医療行為第2回WGで議論されたことがあります。
その中で、日本では特許の審査基準により、人間の診断・治療・手術法は特許の対象とはならないが、米国ではそうではないとして、以下のように紹介されています。
「米国特許法には不特許事由に関する規定は存在しない。したがって、医療関連行為発明に関する特許出願は新規性等の特許要件を審査され、拒絶理由がなければ特許権が付与されている」「1993年、白内障の手術方法について特許権を有していた医師が、同様の手術方法を行っていた別の医師及び病院を特許権侵害により訴える事件が発生した」
「この事件が契機となり、1996年に特許法が改正された」として、「『許諾を得ていない他者の行為を排除する』という特許権の原則は変更されなかった。そのため、形式上は医師等の医療行為が特許権の範囲に含まれる場合には侵害とされ」ます。
ただ、「これらの行為者は差止・損害賠償の請求の対象から除外されることが明確に規定され」ており、「特許」として認められるが、人体に応用した時,つまり、医師が行う医療行為については実質的に特許権を行使できないことになります。
しかし、TPPを機に、医療技術が特許の対象となるべきであるといった議論がおきてくる可能性は否定できません。日本の国内法そのものが俎上に上れば国家の主権に関わる問題となります。