患者申出療養(仮称)に関する連載の3回目で、第707回(3月3日付)の続きです。今回提案されている制度の問題点は、たくさんあります。
1番目は、現物給付の原則に反していることです。「現物給付」とは、保険証を医療機関に提示すれば、診察や検査・投薬・手術などの医療行為が行われることを言います(出産時育児一時金などは「現金給付」です)。
健康保険法では、以下のように定められています。
(療養の給付)
第六十三条 被保険者の疾病又は負傷に関しては、次に掲げる療養の給付を行う。
一 診察
二 薬剤又は治療材料の支給
三 処置、手術その他の治療
四 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
五 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
2番目は、安全性や有効性に乏しい医療が行われ、薬害や医療事故につながる危険があるということです。さらに、その責任は、患者自身と医療行為を行った医療機関が持つことになります。
3番目は、「評価療養」と異なり、将来保険収載になることが前提になっていませんから、ずっと保険外診療にとどめられ、保険診療と自費診療の併用が行われる事実上の混合診療になるということです。また、自己負担も必要になりますから、「カネの切れ目が、命の切れ目」になりかねません。
4番目は、その結果として、公的保険診療の範囲が狭められ、診療報酬の抑制につながります。現在の歯科分野がすでにそうなっています。
5番目は、健康保険が使えなくなる範囲が広がれば、必然的に民間保険が対応することになり、医療における営利化が促進されることになります。
以上の結果として、保険が効く範囲は最低限、後は民間保険がカバーするという、米国型の医療保険制度と同じになると思います。
2005年11月に米国に行き「患者の権利を擁護する仕組み」の調査を行いました。そのレポートは、このHPに「藤原Drの調査レポート」として、40回にわたり連載してきました(注)。その第38回で、こう報告しました。
<<インタビューが終わった後にお礼をいうと、ある方が「(フリーアクセスの)日本の医療制度はすばらしい。最近日本は米国型の医療制度に変更しているようだが、絶対に米国のまねをしてはいけない」と、握手をしながら強い口調で答えました。>>(注)
調査から10年がたち、本格的に米国型の医療制度が持ち込まれようとしていいることに強い危機感を覚えています。「患者申出療養(仮称)」制度の導入には、絶対に反対です。
注:下記のHPを参照ください。
http://www.t-heiwa.com/news/usa-report/usa-report_index.htm
http://www.t-heiwa.com/news/usa-report/no_38.html