第996回:診療報酬にみる「入院から在宅へ」の流れ(9)

地方政治新聞「民主香川」に、「全世代直撃の社会保障改悪」というタイトルで、社会保障関連の内容の連載をしています。2018年9月16日付(第1791号)に掲載した、「入院から在宅へ」の流れを考える(その5)です。

入院時から退院に向けて計画的に診療を行う仕組みづくりについて、まとめてみます。

96年の改定は、療養型病床群(現在の療養型病院・病床)の整備の促進、急性期医療と長期療養の適正な評価、病院・診療所の機能分担の推進等が主な目的で行われました。

入院時医学管理料(入院した時の基本料金)に、入院治療計画加算が設定されました。具体的には、「総合的な入院治療計画の策定に対する評価」したもので、入院時に治療計画(①)を作成し病状や院期間等を文書で説明した場合を評価するものです。入院時医学管理料の加算として、入院1回につき200点でした。その後、入院基本料の算定要件に変更になりました。

つまり、最初は、「加算」として経営的なメリットを強調し、算定する医療機関が増えてくると今度は最低限必要な条件に変更し、要件を満たさなければ「減算」または適応外とする、といった方法で、診療報酬を使って厚労省の狙い通りに医療システムを変えていくというやり方です。

00年には、急性期病院加算・急性期特定病院加算という形で、「詳細な入院診療計画」(②)の評価が行われるようになりました。①の治療計画は、「病名、症状、治療計画、検査内容及び日程、推定される入院期間」等を記載するものでした。一見面倒くさそうに見えますが、入院時点の話ですから、たとえば、「肺炎疑い、発熱・咳・痰、抗生物質の投与、血液検査とレントゲン撮影、約2週間」と書いておけばよいわけです。しかし、②になると、1日目、2日目から退院予定日まで、毎日「治療・薬剤(内服・点滴)、処置、検査、食事、患者さん及びご家族への説明」等を表に記載しなければいけませんから、患者ごとに記載することは不可能です。あらかじめスケジュールを決めておかなければ対応できません。

そこで、「クリティカル・パス」(工事などを行う時の工程表と同じ意味です。略して「パス」)が必要になります。心筋梗塞で入院したら、1日目はカテーテル治療を行うとして、心電図をとる日、レントゲンとる日、血液検査をする日、2回目のカテーテル検査を行う日をあらかじめ決めておけば、心筋梗塞患者のパスができます。同じ要領で脳梗塞のパス、脳出血で手術をした場合のパス、大腿頸部骨折の人工骨頭置換術を施行した時のパス、といった具合で、自医院の汎用手術や治療に合わせて作っておくことになります。

この動きに呼応して、00年以降、脳卒中や大腿骨頚部骨折の術後、心筋梗塞などの特定の疾病に対して急性期治療、慢性期治療、外来・在宅等の患者の流れを定めた「地域連携パス」づくりが広がってきました。

02年には、②の入院診療計画に加え、退院指導計画・退院後の療養上の留意点に関する説明や指導を行うことが付け加えられました。

06年には医療機関の連携の推進を目的に、地域連携診療計画管理料 地域連携診療計画管理料退院指導料が創設され、大腿頚部骨折が対象となりました。08年には対象疾患として脳卒中が追加されます。