地方政治新聞「民主香川」に、「社会保障はどうなるか」というタイトルで、社会保障改悪の内容の連載をしています。2016年6月19日号(第17077号)に掲載した「社会保障はどうなるか(6) 診療報酬改定に見るこれからの医療(2)」です。
今回の診療報酬改定の狙いの一つは「質の高い在宅医療・訪問看護の確保」です。「質の高い」が何を意味するのかはともかく、従来なら入院医療の適応であった患者を在宅で見ることを重視していること(患者追い出しとは言いませんが)は、間違いありません。
診療報酬制度は複雑なので、これから説明する内容は、「在宅療養支援診療所」(※1)の届け出を行っており、「院外処方せんを発行している」場合です。
訪問診療とは、計画的に患者さんの家(施設)を訪問し、診療を行うことです。3月までの診療報酬でいうと、月に2回以上訪問診療を行うと1回あたり830点、さらに月に1回4,200点の在宅時医学総合管理料(在医総管)が算定できます。1点10円ですから、月に2回訪問診療を行うと、合計で6万円弱になります。検査や点滴を行うと別に算定できますから、一見収益が高いように思えますが、医師や看護師などを24時間365日拘束する制度ですから、それほど多額とは言えません。医療従事者の負担も大きいため、厚労省が予想したほどは増えていないのが現状です。
今回の診療報酬改定の方針は在宅重視でしたから、点数が増えるのかと思ったら必ずしもそうではありませんでした。今回の改定で、在医総管の4,200点が、患者の状態により、4,600点に増える方と、3,800点に引き下げになる方に分かれることになりました。
引き上げになるのは、末期の悪性腫瘍、難病法に指定する指定難病などの他、人工呼吸器の使用、気管切開を行っている、気管カニューレの使用、ドレーンチューブまたはカテーテルの使用などで、従来は入院医療や施設入所の対象だった方を在宅に移行させるための受け皿づくりといえます。
2014年4月の改定で、有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅などの「同一建物」に入居している方に、同一日に複数の方に訪問診療を行ったときの訪問診療料(※2)が400点から203点に引き下げられました。さらに、月に2回以上訪問診療を行った場合に算定できる特定施設入居時医学総合管理料(特医総管)が、3,000点から720点に大幅に引き下げられました。
そのため、月2回施設に赴き複数の方の診療を定期的に行う場合、診療報酬が一気に3割以下に引き下げられることになりました。この突然の変更は現場に混乱をもたらし、在宅医療から撤退したり、月2回の診療のうち1回目は対象患者全員を診察し、もう1回は日にちを変えて診察する(2回のうち1回が一人だけの診察の場合は特医総管が従来通りの点数で算定できる)といった、笑えない実例が続出したようです。
今回の改定で、訪問診療料の「特定施設入居者」と「それ以外」の区別がなくなり同一点数で算定と、少し改善されました。また、特医総管について、同一日に何人診察したかで評価するのではなく、その建物に住む患者の数により算定する方式に変わりました。少し改善したとはいえ、同一建物に複数の方がいたら、管理料が引き下げられる訳での、まだまだ問題は多いといえます。
※1:在宅療養支援診療所は、医師または看護師に24時間連絡が可能で、往診や訪問看護の提供が可能な診療所です。
※2:特定施設に入居している場合の点数。1点は10円。特定施設とは、介護保険サービスの「特定施設入居者生活介護」の指定を受けている施設のことで、介護付き有料老人ホーム、ケアハウス、サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)などの一部が該当します。