地方政治新聞「民主香川」に、「史上最悪の社会保障改悪」というタイトルで、医療・福祉の改悪の内容を連載しています。2015年2月15日号(第1662号)に掲載した、「第1回 介護難民続出につながる介護報酬の引下げ」で、一部修正しています。
2015年2月6日に「第119回社会保障審議会介護給付費分科会」が開催され、4月からの、介護保険を利用する時の「定価」にあたる介護報酬が決定されました。
今回の改定の狙いは、「2025年に向けて、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される『地域包括ケアシステム』の構築を実現していくため、平成26年度制度改正の趣旨を踏まえ、中重度の要介護者や認知症高齢者への対応の更なる強化、介護人材確保対策の推進、サービス評価の適正化と効率的なサービス提供体制の構築といった基本的な考え方に基づき行うものである」としています。
しかし、介護報酬全体では4.48%の大幅マイナス、処遇改善手当などの上乗せがあり、合計すれば2.27%のマイナスになっています。2003年度の2.3%減に続く大幅ダウンとなりました。
参議院の予算委員会の小池議員(共産)の質問に対し、塩崎恭久厚労相は「制度の持続可能性が大事だ。保険料も今後3年で15%上昇するはずだったのが、10%程度に抑制できる。低所得者の保険料も現行と同水準で維持できる」と発言、安倍首相は「給付費自体は毎年5%増えている。介護保険制度の持続可能性を確保するためにも、制度の重点化・効率化が必要だ」と回答しました。
今回のマイナス改定の理由は大きく分けて2つあります。一つは制度を持続させるために介護に係る費用を削減する、もう一つは介護サービス全体の平均収支差率(注1)は+8%程度で一般の中小企業の水準の+2~3%を大幅に上回るから(注2)からというものです。
首相は、衆議院の質疑で「介護施設の収支差率は良好だから報酬削減に耐え得る」といっています。厚労省の調査では、特別養護老人ホーム(特養)の収支差率が8.7%とされますが、全国老人福祉施設協議会(老施協)が行った調査では利益率は4.3%、東京都の調査でも4.3%で調査により異なります。
また、特養を経営する社会福祉法人の会計制度は、「社会福祉法人会計基準」のほか、「指導指針」や「老健準則」等、様々な会計ルールが併存したり、公的資金や寄附金等を受け入れていることから、企業会計と単純に比較することはできません。
今回の改定で直撃を受けるのが特養で、約6%もの大幅引き下げです。特養の3割が赤字経営で、入所待機者は52万人にのぼるもとでの切り下げですから、施設の存続も危ぶまれることになりかねません。
東京都北区内で最大となる定員221名の施設の建設が、事業者の撤退で突然中止されました。撤退の理由として事業者が挙げたのは人材確保の難しさと介護報酬の引き下げです(注3)。
この問題に関する小池議員の質問に対し、厚労相は「ケースを一つとりあげ、全部(建設)が止まっているというような一般化は、大きい話にすぎる」と答弁しましたが、NHKは「東京・北区のように施設の建設が中止されたケースは全国に広がっています」と報道しています。NHKが全国の都道府県にアンケート調査をしたところ、この3年間に建設ができなかった施設があると答えた自治体は半数以上に上り、その理由は「応募する事業者がいない」が最も多く、背景には深刻な人手不足があるとみられる、と報じています。
「介護難民」が続出することが確実な、介護報酬の引き下げは直ちに見直すべきです。
注1:収入から支出を引いた額を、収入で割った割合
注2:2014年10月31日付の第684回を参照してください。
注3:NHKのNEWS WEBの記事については、次のアドレスを参照ください。
http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2015_0203.html