(第568回 4月12日 )
これまで薬価について触れてきました。今回は、混合診療について述べます。
日本では、保険診療と、保険の効かない自由診療を同時に行うことはできません。慢性疾患で通院中の患者が、受診時にインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンなどの予防接種を同時に行うことは例外的に認められています。また、人間ドックの胃カメラ実施時に組織検査を行うことなど、いくつかの例外が具体的に示されています。
日本の医療保険制度の特徴は、医療サービスは保険で保障することにあります。新しい薬や画期的な効果を持つ薬の使用、新しい検査法や治療法などは速やかに保険適応とするのが原則です。
ところが、差額ベッドが拡がり社会的な問題となったり、抗がん剤など新しい薬を早く使いたいという「患者要求」(医療者側の要求もある)を理由に混合診療の導入に賛成する意見もあり、原則は保険で保障するが特別なルールを作り例外を認めるという制度が1984年から導入されました。
それが「選定療養」と「評価療養」制度です。選定療養は、差額ベッドを合法化するために導入されました(個人的には医療者側の経済的理由で特別料金をとるのはいかがなものかと思いますが)。ところが、1992年から、時間外や休日などに特別に診療した場合に予約料を取ることできる「予約に基づく診察」制度が導入されるなど広がってきました。この制度自身は問題が大きいと考えますが、この連載の趣旨とはちがうのでこれ以上は触れません。
評価療養は、保険給付の対象とするかどうか「評価」するために一時的に保険診療と同時に行うことが認められたもので、「先進医療」が知られています。先進医療は大学病院など指定された一部の病院で行うもので、保険収載を前提にして、無原則的な混合診療にならないように歯止めをかける意味があり、一定の合理性があると思います。1996年からは新しい薬剤、2002年からは医療機器なども含まれるようになりました。
保険で認められていない新しい薬剤を早く使ってほしいので、混合診療の導入に賛成するという考えもあるようですが、いまの仕組みをきちんと使えば保険制度を守りながら最新の薬剤も使えるわけですから、混合診療を導入する必要はありません。
こういった日本の制度が続くと、新しい薬剤や検査機器などを開発してきた米国の企業は、自分たちが自由に値段を設定することができませんから、儲けが少なくなります。そこで、TPPに日本が参加することにより、この「非関税障壁」を突破しようということになります。
これまで、米国は日本に対し「市場競争原理を導入」「(病院などで)民間の役割の拡大を求め」てきました。2010年には「医療サービス市場を外国サービスに開放し、商業企業体がフルサービスの利益追求型の病院を提供できる機会を認めるように求める」としてきました。
TPPに日本が参加すると、営利企業が医療に参入し、自由に利益を追求できるようになります。
日本のTPP参加には絶対に反対です。
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