社会保障制度改革推進法案(以下、「推進法案」)の第6条は、医療保険制度に関する内容です。冒頭でまず、健康保険法、国民健康保険法などの医療保険制度に「原則として全ての国民が加入する仕組みを維持する」と書きます。
日本の医療制度の特徴は「皆保険制度」です。厚労省はこれまでそのことを誇りにしてきました。
厚労省のホームページでは、"後期高齢者医療制度"についてこう説明します。「我が国の国民皆保険制度」と題し、「我が国は、世界最長の平均寿命や高い保健水準を実現」「これを支えてきたのが国民皆保険制度です」と書き、英国では「病院にかかるには登録家庭医の診察の紹介が必要」、米国では「約6人に1人、4500万人が無保険です」と説明しています。
社会保険庁(2009年末廃止)が毎年発行していた「社会保険の手引き」は、日本の社会保険の特徴を「法律で加入を義務づけ」としていました。「推進法案」の中で「原則として」と書き込んだことは、「国民皆保険制度」を投げ捨てる許しがたい変更点です。
社会保険に加入するのが「原則」なら、「例外」はどうなるのでしょうか。
安倍政権が急速に前のめりになっているTPP参加の問題があります。「関税障壁」とは、車や電気製品やコメの輸出入に係る税金の問題ですが、制度や法律を含む「非関税障壁」があり、米国の保険業界が日本で営業する時に邪魔になる日本の医療保険制度も含まれます。
米国の保険業者が「**保険に加入しましょう」と呼びかけても、「私は国民健康保険に加入していて、高額療養費制度があり、医療費の自己負担が高くなっても一定額を超えた分は後日払い戻されますから、保険には加入する必要がありません」と言われると、米国の保険会社の商売の邪魔(障壁)になります。社会保険に加入していない「例外」が増えれば、米国の「市場が広がる」ことになるのです。
金融庁は、TPP参加による公的保険の縮小を念頭に置き、民間保険を受け皿にする議論を開始しています。2012年11月28日に開催された金融審議会の第7回「保険商品・サービスの提供等の在り方に関するワーキング・グループ」では、生保・損保などの保険会社が医療に参入した時の法的枠組みについて検討しています。
「保険金支払い直接支払サービス」は、保険金の支払いを契約者からサービス提供者に変更するものです。簡単にいうと、患者が払った医療費の自己負担分を保険会社が加入者に支払う仕組みから、保険会社が直接医療機関に支払う仕組みで、金融庁も前向きとされます。
「現物給付型保険」は、「予め定められた物品・サービスの提供」を行うものですから、「健康保険でカバーされない内容」、具体的には保険診療の対象とならない自由診療に対応が可能となり、事実上の混合診療が解禁されることになります。
こういった制度が実施されたなら、当初は少数であっても、保険診療の内容が縮小されていけば、民間保険に入った方がまし、ということになるかもしれません。公的医療保険制度が崩壊する可能性もあります。
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