(第414回 3月29日 )
東日本大震災は、戦後最大の被害をもたらしており、人的被害は岩手県・宮城県・福島県に集中していますが、東北・関東地方全域で製造業などに被害がおよび、さまざまな分野で影響がでています。
今回は、医薬品業界の影響について触れます。
製薬メーカーの名前は省略しますが、東北・関東地方の工場が打撃を受けています。薬剤を製造する工場だけでなく、薬剤を入れる容器をつくる製函工場、物流センターや配送倉庫の被災、計画停電による生産の中止や遅延、配送遅延などで薬剤の供給の停止や遅延がおき、全国の医療機関が影響を受けています。
マスコミで話題になりましたが、あすか製薬の「チラーヂンS」(甲状腺ホルモン剤)が、福島県いわき市の工場が被災にあい供給が不安定になりました。日本国内で98%のシェアを占めており代替製品もないため、関係者が憂慮する事態になりました。シェアの残り2%を製造している富山県のメーカーに地震の影響はないようですが、突然生産を50倍にすることは不可能です。
最近の情報では、製造設備が部分的に被害を免れていたことや原材料に被害がなかったことから、生産の一部再開、緊急輸入や他メーカーでの委託生産などにより、「4月中旬頃に医療現場の需要を満たす量を供給」できる可能性がでてきました。
重要な薬剤であり、古くからある薬剤で製造特許が消滅している薬剤が(技術的な問題はともかく、どこのメーカーでも製造する権利がある)、なぜこんなことになるのでしょうか。
「チラーヂンS」錠は成分量により、25、50、100と3種類ありますが、薬価はいずれも1錠9円60銭です。成分量が4倍になっても値段が同じということは、「作っても儲けにはならない」ということです。今回の問題は、メーカーの責任ではありません。重要な薬剤が事実上1メーカーだけに生産が任されている、現在の仕組みに問題があります。
筋肉痛などに使用するシップ薬でも問題がおきています。久光製薬の栃木県宇都宮工場が被災し、「モーラステープL」が出荷停止となりました。ただ、主力製品である「モーラステープ」(Lの半分の大きさ)が、佐賀県鳥栖市の工場で生産しているためただちに入手困難とはなりませんし、ジェネリック製品があるので、当面は問題がないと思われます。頻用薬剤だけに大きな影響をうけますが、西日本と東日本で同様の薬剤を生産してきたことと、同効薬(ジェネリック製品)が別の企業から生産されていたことが、混乱を最小限にとどめたといえます。
薬は国営企業が生産すべきだと主張するつもりはありませんが、重要薬剤の安定供給に国が責任を持つのは当然だと思います。地域的に離れた、東日本と西日本などの複数の場所で生産を行う、生産量が安定するような施策をとるなど、方法はいくらでもあると思います。
国家レベルでの「リスク管理」が問われています。
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