(第90回 8月31日 )
長崎市で被爆した長崎英子さん(仮名)の原爆症認定訴訟の第4回口頭弁論が、 8 月 27 日高松地裁で行われました。第 9 回飛来峰( 2006/10/20 )で紹介したとおり、原子爆弾が投下された翌日に入市、被爆者として認定されていますが、原爆症の認定も異議申請も却下されたため提訴しているものです。
原爆症認定上の問題点は、爆心地からの距離と被爆当日に市内にいなければ認められないという所にあります。 1987 年に日米の研究者が被曝線量を推定する方式(DS86)を策定しましたが、原子爆弾が爆発した時に放出された放射能による影響を元に設定されたため、地面に残った残留放射能や「黒い雨」により汚染された水や食べ物の影響は無視されています。
原爆症認定訴訟は 8 月 21 日現在、 22 都道府県で行われており、 15 地裁 6 高裁合計 275 人が提訴しています。 7 月 30 日に熊本地裁が原告 21 人中 19 人を原爆症と認め、「内部被曝などを考慮しておらず、放射線量が過小評価されている可能性がある」と現行の認定基準の誤りを指摘しました。昨年 5 月の大阪地裁判決以来、国が「6連敗」しています。
安倍首相は 8 月 5 日の被爆者との会合で基準見直しに初めて言及したものの、熊本地裁判決を不服とし 10 日控訴しました。しかし、 8 月 30 日、自民党の原爆被爆者に対策に関する小委員会が、現行の国の基準を廃止し、一定の距離で被爆し典型的な症状があれば原爆症と認める新基準を作ることを求める提言案をまとめました。速やかに、控訴を取り下げ、新しい基準を作る事が求められています。
坪野吉孝・東北大教授は 8 月 24 日付「朝日」に、原爆症の認定基準見直しについて「参考にすべき事例がある」として、終戦直後に広島・長崎に駐留し残留放射線に被曝した米軍人を対象にした米国の障害補償制度を紹介しています。
放射線に関連する 21 種類のガンを指定し、駐留の事実が確認されたら被曝との関連を自動的に認定。 21 種以外のガンと一部の白内障など 5 種類の疾患を指定、当時の被曝の量や期間を個別審査し認定する、というものです。
「「原因疾患」を過度に限定すべきではない」「不確定な部分を簡単に切り捨てず、謙虚な姿勢で臨む」ことを求めていますが、 30 年近く被爆者医療に関わった医師の一人として、強い共感を覚えるものです。戦後 62 年が経ち被爆者は高齢化しており、時間が無限にある訳ではありません。速やかに控訴を取り下げ、新しい基準を速やかに策定する事を国に求めるものです。
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