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Monthly Archives: 2月 2016

地方政治新聞「民主香川」に、2016年1月から「社会保障はどうなるか」というタイトルで、社会保障改悪の内容の連載を始めました。2016年2月21日号(第1698号)に掲載した、「社会保障はどうなるか(2) TPPと医療について(上)」で、一部修正しています。

TPP協定(環太平洋経済連携協定)の署名式が、2016年2月4日(日本時間)、ニュージーランドのオークランドで行われました。

この協定は、2年以内に、参加する12の国すべてが議会の承認など国内手続きを終えれば発効します。しかし、2年以内に手続きが終わらない場合、12カ国のGDP(国内総生産)の85%以上を占める少なくとも6カ国が手続きを終えれば、その時点から60日後に協定が発効します。

日本のGDPは17.7%、米国が60.4%ですから、いずれかの国の手続きが終わらなけらば失効します。また、2つの国だけで加盟国の全体の78%を超えるため、日本と米国以外の、GDPが比較的大きな4カ国が手続きを終えれば、2018年4月に発効します。

TPPが医療にどう影響するかを考えてみます。

新しい薬の製造販売承認をするには審査が必要ですから、一定の期間がかかります。米国はこの審査期間の分だけ特許期間を延長するように求めてきました。

TPP条文(※)の「第C款 医薬品に関する措置」の「第十八・四十八条 不合理な短縮についての特許期間の調整」では、以下のようになっています。

1 各締約国は、不合理又は不必要な遅延を回避することを目的として、効率的かつ適時に医薬品の販売承認の申請を処理するため最善の努力を払う。

2 各締約国は、特許の対象となっている医薬品については、販売承認の手続の結果として生じた有効な特許期間の不合理な短縮について特許権者に補償するため特許期間の調整を利用可能なものとする

つまり、米国の要求通りに、特許期間の延長が可能になる仕組みになっています。

日本では、製薬企業の利益を優先して高薬価を維持する「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」(新薬加算)がありますが、TPP承認とは別に、これを拡大する仕組みが検討されています。新薬加算は、新薬の開発費の確保などを口実に10年から試行導入したものですが、14年までに2180億円が費やされ、対象品目の薬剤費は総薬剤費の3割に拡大しており、薬剤費が減らない主要な原因となっています。また、外国の薬価が極端に高い場合に日本での薬価が跳ね上がるのを防ぐために「外国価格調整制度」を作っています。

しかし、第26章(透明性及び腐敗行為の防止)には、附属書26-A(医薬品及び医療機器に関する透明性及び手続の公正な実施)が含まれており、「新たな医薬品又は医療機器に対する保険償還を目的とする収載のための手続き」について、「検討を一定の期間内に完了することを確保する」ことや、「独立した検討過程」を設けて、保険収載しない場合には「決定に直接影響を受ける申請者」が、不服審査を開始することができるとしています。日本の薬価を決める仕組みに対して、米国が直接口出しできる仕組みづくりといえます。

ジェネリック医薬品の拡大に対して大手製薬メーカーを保護する仕組みとして、「特許リンケージ制度」が導入されます。ジェネリック薬企業から製造販売承認の申請があると、政府が、当該医薬品にかかる特許権者(新薬の開発企業)に通知を行い、特許権を侵害していないか確認することを義務づける制度です。特許権者が訴えを起こした場合は、製造販売の承認審査が停止されます。

したがって、ジェネリック薬品が流通しにくくなります。その結果として薬剤費は高止まりし、医療費はますます増加することになります。

韓米FTA(自由貿易協定)や豪米FTAでもこうした通知制度が設けられ、薬剤費が高騰したと伝えられています。

TPPは、日本の医療保険制度を根幹から破壊するものだといえます。

 

※TPP協定の仮訳文は、下記のアドレスに掲載されています。

http://www.cas.go.jp/jp/tpp/naiyou/tpp_text_kariyaku.html

2月10日に、第328回中央社会保険医療協議会(中医協)総会が開催され、診療報酬改定の概要が答申されました。

診療報酬は、骨格を中医協で協議して決定し、厚労相に答申、厚労省で細かな点を決めた後、3月初めに決定されます。答申で示された内容は、大まかなもので、最終的には、3月初めに示される「点数表の告示・通知」で明らかにされます。といっても点数表だけでは解釈がむつかしいことも多いので、告示・通知等を参考にしますが、それでもわからない点が多いのが実際です。

2年前の改定の時は、2014年は3月5日(火)に点数表と告示・通知が発出されましたが、今年の3月5日は土曜日なので3日か4日になると思われます。

今回の改定の特徴は、医師等の技術料などの評価を表す「本体」部分が、0.49%の引き上げとされますが、薬価・医療材料などが1.33%引き下げとなります。さらに、別途薬価再算定の引き下げを含めると、全体で1.31%引き下げのマイナス改定です。

さらに、「新規収載された後発医薬品の価格の引下げ、長期収載品の特例的引下げの置き換え率の基準の見直し、いわゆる大型門前薬局等に対する評価の適正化、入院医療において食事として提供される経腸栄養用製品に係る入院時食事療養費等の適正化、医薬品の適正使用等の観点等からの1処方当たりの湿布薬の枚数制限、費用対効果の低下した歯科材料の適正化の措置を講ずる」とされますから、全体として大きな引き下げ改定であるといえます。

次回から、いまわかっている範囲での改定内容とその問題点について触れたいと思います。

 

※市場拡大再算定とは、「予想年間販売額の2倍以上、かつ年間販売額が150億円超」の薬品、つまり予想以上にバカ売れした商品(表現に問題がありますが)が、最大20%前後引き下げられる制度です。最近では、C型肝炎の新薬が対象で、治療期間が12週間ですが、12週間の薬剤費だけで546万円から673万円になります(1カ月でいうと200万円前後になります)。

 

(この項、続く)

地方政治新聞「民主香川」に、2016年1月から「社会保障はどうなるか」というタイトルで、社会保障改悪の内容の連載を始めました。2016年1月17日号(第1695号)に掲載した、「社会保障はどうなるか(1) 医療事故調査制度について」で、一部修正しています。

15年10月より、「医療事故調査制度」が始まりました。この制度は、14年6月に成立した、医療法の改正に盛り込まれた制度です。

厚労省によれば、「医療事故が発生した医療機関において院内調査を行い、その調査報告を民間の第三者機関(医療事故調査・支援センター)が収集・分析することで再発防止につなげるための医療事故に係る調査の仕組み」とされます。

第三者機関である「日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)」が1月8日に発足後3ヶ月間の現況報告(注)を行いました。

それによると、医療事故報告受付件数は、10月19件、11月26件、12月36件で累計81件でした。相談件数はそれぞれ250件、160件、187件で累計597件です。院内調査結果報告は10月なし、11月1件、12月6件で累計7件です。

制度が始まったばかりで、医療機関も様子見をしているのが実情だと思いますから、この数字が多いか少ないかについては、何とも言えないと思います。

しかし、実際に報告義務となるのは「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であつて、予期しなかったもの」ですから、死亡例以外は対象となっていません。また、遺族への説明や診療録への記載が適切に行われた場合も、報告対象となりません。

一方、制度発足後も個別事案の紛争解決、つまり責任追及のために本制度を利用しようとする動きがあるといわれています。

もともと、この制度は、死亡例に限らず、医療行為に伴う予期しない事態が発生した時に、原因究明や再発防止を目的とする制度として検討されたものです。医療従事者側の法的責任追及とは別に考える必要があります。

医療事故調査を行う第三者機関の創設を訴えてきた市民団体「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」(患医連)の永井裕之代表らは10月2日、医療事故調査制度に関して被害者・遺族らの相談窓口を設置すると発表しました。

永井代表によれば、「制度が国民から信頼される制度になるかどうかは、医療界・医療者が真摯に調査にとりくむかどうかにかかっているが、まだ多くの課題が残されている」と指摘しています。

国会での議論が不十分なまま成立した制度ですから、問題点は多いのですが、制度ができた以上、国民・患者の視点でよりよい制度に変えていく必要があると思います。今後の動きに注目する必要があります。

 

注:日本医療安全調査機構の報告については、以下のアドレスを参照ください。

https://www.medsafe.or.jp/uploads/uploads/files/houdoushiryo20160108.pdf

注2:厚生労働省医療安全対策検討WGの元委員の勝村久司さんは、「医療事故調査制度」で知っておくべき6つのポイント、としてこの制度についての意見を明らかにしています。下記のアドレスを参照ください。

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5472?page=1

2月9日付(第778回)の続きです。

3.後期高齢者の窓口負担の2割化

経済・財政再生アクション・プログラム(以下、プログラム)では、「負担能力に応じた公平な負担、給付の適正化」の項で、「世代間・世代内での負担の公平を図り、負担能力に応じた負担を求める観点から」「医療保険における後期高齢者の窓口負担の在り方について、関係審議会等において検討し、集中改革期間中に結論を得る」としています。

「平成28年度予算の編成等に関する建議」でも「75歳以上も」「(70~74歳と同様に)2割負担を原則とする」ことが提案されています。

介護保険でも同様に「利用者負担の在り方について、関係審議会等において検討し、 2016 年末までに結論を得て、その結果に基づいて必要な措置を講ずる」としています。

厚労省のいう「公平な負担」とは、常に「高い方に」合わせますから、介護保険も後期高齢者医療保険も2割に変えていくことにほかなりません。

4.市販類似薬の保険外し

「プログラム」では、市販類似薬の保険外しについて「平成28年度診療報酬改定での試行的導入に向けて評価対象の選定方法等を検討し、結論を得る」「長らく市販品として定着したOTC(※)類似薬を保険給付外とする」としています。

すでに、この4月からの診療報酬改定では、外来患者に1処方につき 70枚を超えて湿布薬を投薬した場合には、「調剤料・処方料・処方せん料・調剤技術基本料のいずれも算定できない」「薬剤料も、超過分については算定しない」ことになりました。医師が必要と認めた場合は「その理由を処方せん及び診療報酬明細書に記載することで算定可能」ですが、実質上、湿布は70枚までしか処方できないことになります。

「セルフメディケーション」(自分の健康は自分で責任を持ち、軽度の症状なら自分で手当てすること)の名のもとに、保険診療に制限が行われることになります。

※OTC医薬品:OTCはOver The Counterの略で、医師が処方する医療用医薬品に対し、薬局やドラッグストアなどのカウンター越しに販売できる薬のことで、以前は一般薬・大衆薬と呼ばれていました。

地方政治新聞「民主香川」に、「史上最悪の社会保障改悪」というタイトルで、社会保障改悪の内容を連載しています。2015年12月20日号(第1692号)に掲載した、「第11回 病床機能報告制度と地域医療構想(下)」で、一部修正しています。

2015年11月13日に、第2回香川県地域医療構想策定検討会(注)が開催されました。

香川県では第2次保健医療圏として、高松市・木田郡・香川郡からなる「高松」、さぬき市・東かがわ市からなる「大川」、丸亀市・坂出市・善通寺市・綾歌郡・仲多度郡からなる「中讃」、三豊市・観音寺市からなる「西讃」、小豆郡からなる「小豆」の5つが設定されています。

原則として、医療圏ごとに「必要病床」が設定されることになっていますが、香川県のように狭く、かつ道路の整備が進んでいる地域では、上記の5つの医療圏ごとに「必要病床」を決めるというのは現実に合っていません。

例えば、三豊市や観音寺市から、小児患者が善通寺市にある小児専門病院である「四国こどもとおとなの医療センター」を受診することはよくあることです。重症患者や希少疾患などで専門医が高松圏域にしかいない場合は、全県から県立中央病院や香川大学病院に患者がやってきます。

ですから、患者の「居住地」の範囲で「必要病床」を設定することにはかなり無理があります。

今回の地域医療構想策定検討会では、「地域医療構想策定ガイドラインにおいて、構想区域の設定に当たっては、二次医療圏を原則としつつ、人口規模、患者の受療動向、疾病構造の変化、基幹病院までのアクセス時間等の変化など将来における要素を勘案して検討することとされている。本県においては、以下の状況を踏まえ、現行の二次保健医療圏のうち、大川保健医療圏と高松保健医療圏を合わせて東部構想区域、中讃保健医療圏と三豊保健医療圏を合わせて西部構想区域、小豆保健医療圏を小豆構想区域とし、3つの構想区域を設定することとしたい」としています。

小豆郡は、「島」という特殊性があるので特別に考える必要がありますが、とりあえず「小豆」を除き2つの医療圏に分けたとしても、愛媛県(宇摩)から香川県(三豊)へ患者の「流入」(高度急性期11人/日、急性期31人/日、回復期18人/日)が見られる、香川県(高松)から岡山県(県南東部)にへ患者の「流出」(急性期11人/日、回復期12人/日)がみられると、「検討会」では指摘されています。

杓子定規に「医療需要」を定め、「必要病床」を定めることにはかなり無理があることを示しています。現実に合った医療「需要」、「必要病床」を検討し、フレキシブルな対応が必要です。

注:下記のHPを参照ください。
http://www.pref.kagawa.lg.jp/content/dir1/dir1_5/dir1_5_1/wghdsu151115081950.shtml

先週は、あちこち移動が多かったので、1週間休載しました。今号は、1月29日付(第777回)の続きです。

3.入院時の居住費の徴収

経済・財政再生アクション・プログラムでは、「医療・介護を通じた居住に係る費用負担の公平化」と称して、現在65歳以上の、療養病床の医療区分Ⅰ(比較的軽症の方が対象)の方だけに課せられている居住費(光熱水費)を療養病床全体及び一般病床に広げようとしています。一般病床については法改正が必要ですが、療養病床全体に広げるためには法改正の必要がありませんから、すぐにでも実行される可能性もあります。

2015年に成立した医療保険制度改革関連法の中で、65歳未満の現役世代の入院時の食事代負担は、2016年度から1食100円の引き上げ、2018年度からさらに1食100円引き上げられ、2018年4月からは、現行制度に比し1食200円(1日3食で600円)引き上げられることが決まっています。

これは、これまでの「食費」の考え方が「食材費」だったのが、「食材費と調理費」になったためです。財務省のプログラム通りになれば、65歳未満の現役世代が一般病床に入院して1日3食の食事をした場合、居住費・食費の負担は、1日当たり食材費780円から、2018年度からは食材費780円+調理費600円+居住費320円で、1700円となり2.2倍になります。1カ月30日として、23,400円から51,000円に、27,6000円の負担増になります。

さらに「プログラム」では、「医療保険において金融資産等の保有状況を考慮に入れた負担を求める仕組みについて、関係審議会等において検討」、財務省の「平成 28 年度予算の編成等に関する建議」では、「入院時生活療養費の負担能力の判定に際して」介護保険の「補足給付(注)と同様の仕組みを適用すべき」「マイナンバーを活用して、所得のみならず、金融資産の保有状況も勘案して負担能力を判定する」としています。

ますます、負担が増えていく仕組みづくりが待っているといえます。

注:補足給付とは、介護保険施設入所者や短期利用者に対して、食費や居住費を軽減する仕組みのことで、2015年8月から、その受給要件について資産が勘案されることになりました。そのため、制度を利用するときには預貯金通帳の写しの提出が必要になりました。

(この項、続く)